咲かない庭のアリス

自分を夢だと思い込んでいる現実の子と、自分を現実だと思い込んでいる夢の子がいました。夢だと思い込んでいる現実の子は、現実の部屋で暮らすのをつまらなく思いました。現実だと思い込んでいる夢の子は、夢の部屋で暮らすのが馬鹿馬鹿しいことに思えました。

ある時、二人はお互いの部屋に額縁があることに気づきました。そしてさらに、この額縁を通してお互いの場所を行き来できることに気付いたのです。こうして現実の子は夢の部屋、夢の子は現実の部屋で暮らせるようになりました。

しかし程なくして二人はそれぞれの部屋でまたべつのことに気付きました。まず現実の子は、夢の部屋には別の夢に通じる扉があることに気づきました。そして夢の子は、現実の部屋に他の現実を覗く窓があることに気づきました。夢の子は、他の現実があることに興味を持ち、窓を開けてみました。そして窓の外を通りがかった顔を見て驚きました。そこには、扉から出てきた現実の子の顔がありました。

2019年11月のデザインフェスタで販売した物語画集「煙たい惑星」より、「煙い月」

※この文章は画集にて上記の絵に寄せたものです。

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