煙い月

ゴミ捨て場の横に、アルミ製の灰皿がカラカラ転がっていたのです。真ん中の方は木星のように赤茶けて、外側を灰色の塵が包んでいるような古いものでした。

それから、私がそれをビニール袋にしまおうと片手でつまみあげると、突然私の体の重さがつま先から頭の方へ突き抜けるような感覚がしたのです。その時は何がなんだかわかりませんでしたが、しばらくしてどうやら自分が灰皿の方から空へ転落しているらしいのが分かりました。

私の体はものすごい速さで雲の中に引っ張られ、分厚い水蒸気で何度か溺れそうになりました。なんとか堪えると、しばらくして自分の肺の真ん中あたりから、体が柔らかく軽くなっているのに気付きました。柔らかさはどんどん広がって、最後には私の内側と外側は煙が翻るように反転してしまいました。

それから今日まで、することもないので私は自分の煙たい体で曇った月を眺めたりしています。

2019年11月のデザインフェスタで販売した物語画集「煙たい惑星」より、「煙い月」

※この文章は画集にて上記の絵に寄せたものです。

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