咲かない庭のアリス

自分を夢だと思い込んでいる現実の子と、自分を現実だと思い込んでいる夢の子がいました。夢だと思い込んでいる現実の子は、現実の部屋で暮らすのをつまらなく思いました。現実だと思い込んでいる夢の子は、夢の部屋で暮らすのが馬鹿馬鹿しいことに思えました。

ある時、二人はお互いの部屋に額縁があることに気づきました。そしてさらに、この額縁を通してお互いの場所を行き来できることに気付いたのです。こうして現実の子は夢の部屋、夢の子は現実の部屋で暮らせるようになりました。

しかし程なくして二人はそれぞれの部屋でまたべつのことに気付きました。まず現実の子は、夢の部屋には別の夢に通じる扉があることに気づきました。そして夢の子は、現実の部屋に他の現実を覗く窓があることに気づきました。夢の子は、他の現実があることに興味を持ち、窓を開けてみました。そして窓の外を通りがかった顔を見て驚きました。そこには、扉から出てきた現実の子の顔がありました。

2019年11月のデザインフェスタで販売した物語画集「煙たい惑星」より、「煙い月」

※この文章は画集にて上記の絵に寄せたものです。

煙い月

ゴミ捨て場の横に、アルミ製の灰皿がカラカラ転がっていたのです。真ん中の方は木星のように赤茶けて、外側を灰色の塵が包んでいるような古いものでした。

それから、私がそれをビニール袋にしまおうと片手でつまみあげると、突然私の体の重さがつま先から頭の方へ突き抜けるような感覚がしたのです。その時は何がなんだかわかりませんでしたが、しばらくしてどうやら自分が灰皿の方から空へ転落しているらしいのが分かりました。

私の体はものすごい速さで雲の中に引っ張られ、分厚い水蒸気で何度か溺れそうになりました。なんとか堪えると、しばらくして自分の肺の真ん中あたりから、体が柔らかく軽くなっているのに気付きました。柔らかさはどんどん広がって、最後には私の内側と外側は煙が翻るように反転してしまいました。

それから今日まで、することもないので私は自分の煙たい体で曇った月を眺めたりしています。

2019年11月のデザインフェスタで販売した物語画集「煙たい惑星」より、「煙い月」

※この文章は画集にて上記の絵に寄せたものです。